

引退した競走馬の進路のひとつとして、全国の乗馬クラブや馬術部などで活躍する「乗馬への道」が挙げられます。
実際に、引退馬の中でも有名な重賞勝利馬であるアドマイヤタイシやダークシャドウ、G1馬のマイネルレコルトなどが乗馬として活躍しています。
かつて競馬場を力強く走っていた馬と、今度は一対一のパートナーとして向き合える。
そんな乗馬という選択肢が持つ魅力と、それを支える仕組みについて詳しく解説します。

レースの世界を退いた馬たちが、すぐに乗馬として活躍できるわけではありません。
時速60km以上で全力疾走するために鍛えられた競走馬は、騎手の合図に対して前へ前へと突き進む本能を強く持っています。
そのため、初心者レッスンや穏やかな外乗で活躍するためには、まずはリトレーニングと呼ばれる再教育が必要です。
リトレーニングでは、足の位置や手綱のわずかな感触で、止まる・ゆっくり歩く・横へ動くといった繊細な合図を教え直します。
全力で走ることを求められてきた彼らにとって、自分のペースを抑え、人の指示を待つ動作は、非常に高度な学習です。
多くの時間と忍耐強い人の手が必要ですが、この再教育のプロセスこそが馬たちの新しい可能性を引き出す大切な時間です。
リトレーニングが難しい場合は、ほかの進路も視野に入れることになります。
再教育を終えた馬たちは、各地の乗馬クラブへと移ります。
そこでは、競走馬として障害物を飛び越えるような高度な技術を発揮する馬もいれば、穏やかな性格を活かして子供たちの初めての乗馬体験を支える馬もいます。
競走馬時代のような激しい勝負の世界ではありませんが、多くの人々に背中を貸して触れ合いを通じ、癒やしを与えることは引退馬にとって立派なセカンドキャリアのひとつです。
現役時代は近寄りがたいほどの闘争心を見せていた馬が、時間をかけて人を新たな形で信頼し、穏やかな表情に変わっていく姿をみるのは、関わる人々にとっても大きな喜びとなります。
「自分が応援していた馬に、今度は乗馬クラブの会員として会いに行く。」
そういったレースの興奮を感じる観客とはまた違う形で、深い絆を感じられる推し活ができるのも、乗馬の道の良さのひとつでしょう。

乗馬クラブの利用は、自身の趣味にも繋がるほか、引退馬の未来を支える大きな力になります。
馬を飼育するには広い場所や質の高い食事、健康管理など多額の費用が掛かりますが、私たちが乗馬を楽しむことで生まれる収益がその馬を養い、さらには次の馬を受け入れるための資金へと繋がります。
また、リトレーニングを終えて乗用馬として活躍できる馬が増えるほど、社会全体で受け入れられる引退馬の総数も増えていきます。
馬に乗るという体験そのものが、彼らの命を繋ぐバトンの一部となっているのです。
乗馬という選択肢は、馬と人が直接触れ合い、心を通わせられる特別な場所です。
競走馬のスピード感とはまた違う、温もりに満ちた時間を共に過ごすことで、馬と人との新しい絆が生まれます。
全国には、元競走馬たちが元気に働いている乗馬クラブが数多く存在しています。
もし近くにそのような場所があったり、気になった方がいたりすれば、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
彼らの穏やかな目の中に、現役時代とは違う輝きがきっと見つかるはずです。